【風の子造形教室】
1978年から山王台で風の子造形教室を続ける池谷(いけのや)さん。
沼津市内外でダイナミックな展示会が実施されてきました。
エネルギー溢れる子どもたちの絵や造形物がどんなふうに生まれているのか、 子どもたちからどんなことを感じているか、お話を伺いました。
今回は生徒の保護者の方にも同席いただきました(以下、保)
ちっちゃい子もおっきい子も、
みんなで一緒のテーマのものを作る『異年齢教室』
photo by 風の子造形教室
──風の子造形教室は4歳からですか?
そうですね。
4歳から高校生までいます。基本は4歳から小学校6年生までが中心の年齢層です。
でもほんとに好きな子は現在通っている高校生のように飛び飛びでも顔を見せるとか、何やってんのかなって覗きに来るとか、そういうことはありますよ。
ちなみに大人のクラスもあります。
4歳からとしているのは、(教室内で)飽きることなく取り組めるようになってくるから。
小さいころから色に慣れて色を混ぜることを知っておくとやはり表現が豊かになりますね。
それとその頃の絵って1番いいな〜って感じます。
──池谷さんにお話を聞きたいなと思った理由の一つが、異年齢である点なんです。
ここに来ればちっちゃい子も、おっきい子も、上も下もいて、みんなで一緒に同じテーマのもの作るからね。
ごたまぜ異年齢でつくる、設計図のない共同制作
──今教室に通われているのは何人くらいですか?
今、35人くらい。
何か展示したり、共同制作をしたりするときに50人は欲しいなと思います。
中学生が来たり、幼稚園生が来たり、小学生がいたりして、すごいぐちゃぐちゃの中で異年齢でやっているので、共同制作でとっても面白いものができるんですよね。
ほんとうに計画的じゃなくて、1人が来て描き出したら、そこに繋がって描いていく。
設計図なしなんですよね。
──2022年12月のラクーンの展示会で展示されていた地図も、そんな感じですか?
そうですね。
ラクーンの時には長さがあり、テーマが『沼津の街』なので(大まかなベースを)みんなで8月に形を取り行って。それを切り取って紙の中に入るように並べました。
──あの作品は、じっと見る面白さがあります。
どこまでも見てられるというか、全然違う人がいたり、車がすごく細かく一生懸命描かれていたり。
こだわるところが違うんで面白いですよね。
のびのび大きく描く、だけじゃなくてもいい!
──ラクーンの展示では、絵の紙の大きさがみんなバラバラで、よく見ると切り貼りしてありました。
その時、池谷さんが仰っていたのが「描いていて紙が足りなくなったら足す。大きすぎたら切る」というお話でした。
子供の絵って大きくてはみ出すように、のびのび描くっていうのが一般的に良いとされていますよね。
でもそうじゃなくて、細かいものがすごい好きっていう子もいる。
ちっちゃくなっちゃうんだけど、それはそれで良いと私は思います。
だから教室でテーマを考えるときも、すごく細かいものをやる時もあるし、大きいものをやる時もある。
その時にそれぞれの子供の能力が発揮されるので、いろんなタイプのことをします。
子どもたち、それぞれが持っている『見え方』を大事に
(続き)
造形教室の先生といっても私は「いろんな教材提供者」みたいな感じですね。
もちろん、色の混ぜ方とか形の取り方のような基本的なことは教えます。
でもあとは教材を提供するだけで、各々の子供たちの感性を引き出したいと思っています。
だから「教えない」っていうと、なんで教室行ってるのにと思われるかもしれないですけど、自分で考える力を生み出すことが大事だと思うんですよね。
自分で感じたことを表現するという形をとっています。
──どう見るかって大事ですよね。
そうそうそうそう。
──見てるものが同じはずなのにできたものが違うんですね。
そうそう。同じものを見て描いたの?って。
多分船の絵のときも同じものを見て描いたのだけど、でもそれぞれの見方があるの。
そういうものを潰さないようにしたいと思うんですよね。
その子の持ってる感じ方とか、描き方とか、色の表現の仕方とか、そういうものをこっちが教えるんじゃなくて伸ばすっていうか、引き出すっていうか。
そういう風な形へ持っていきたいなっていうのは、いつも思ってますね。
点数でつけられないものを作ってる
──親としても、子どもがやりたいことや考えていることを引き出したいんだけど、その方法がわからない。というのは日々あります。
この43年間やってる中で、どんな試行錯誤がありましたか?
どっちかって言うと、子供に教えられたんじゃないですか。
1つの点数をつけるものではなくて、みんなそれぞれのそれぞれを出す、みたいな。
例えばこれ、雨の絵なんですけど、こういうのを描いても上手い下手わかんないでしょう。
多少、高学年かな、ちっちゃい子かなっていうのはわかるかもしれないけれども。
みんなそれぞれの絵を描けるので、上手い下手っていうのはなくて、その子の個性が出てくるっていうだけの話なんですよね。
作品作りのテーマは面白そうなこと
──教室ではいつも1日1テーマですか?
そうですね。1回きりでやりきります。
──毎年大体同じカリキュラムですか?
いえいえ、気分なんです。私の。笑
自分が「これ面白いな」と思わないと子供たちにもその気持ちが伝わらないと思うので、結構ギリギリまで迷ってます。
ある程度の基準線は決めとかないとテーマの用意もあるし大変なんだけど、自分がその時に感動できるものがいい。
さっきの雨の作品も、このときギリギリにすごい雨が降ったんです。
──すごい雨が降ったから雨の絵描こうって、楽しいですよね。
日常、自然をそのまま表現する。
夫にも「今までのデータがこんだけあるんだから、その中から選んだら簡単じゃないか」って言われるんだけど、そうじゃないんだよなぁ笑
匂い、音、感触を表現する
他者の評価よりも自身の心の発散に
(続き)
大きくなると観念や意識の方が先に出てきます。ここの形はこのほうがいいか、とか。
それは子供としての成長の過程でね。
意識が出てきた時にどう描くかをうまく伸ばしていく手段をとるのが大事だと思っています。
──我々大人もなんとかうまく描こうとしてしまって、表現することが苦手になりがちです。どんなことを意識したらいいんでしょうか。
形をうまく描くとかじゃなくて、五感ですよね。
五感で匂いの絵とか、音を聞いての絵とか、何かを触った感じの絵とかすごい抽象的なんですけれども、そういう自分から出せる感性みたいなものが出てくるように導いてあげるといいんじゃないかなと思うんですよね。
だから、どの世界でも五感っていうのは必ず言われることだと思うんですけれど、もちろん美術もそうであって、自分が感じて表現できるってことがすごい。
それで、それを人に評価されてどうのじゃないんですよ。
自分の発散のため。
子供なんかは特に評価じゃなくて。
自分が今日はうまくかけて、いいのが作れたとかね。
気持ちが楽になるとかね。
そういうことを獲得できればいいんじゃないかなと思う。
毎回ヒット出るわけじゃないんですよ。
その日の気分によっても色々表現が違うし。
だから毎回はピカソになれないけれども、1年のうち1回はピカソになるかもしれない。
その1回のピカソをちゃんと見てあげられると、それが2回、3回になっていくかもしれない。
──ああなるほど…なんかいいですね。
1年に1回のピカソ。
4歳5歳あたり、観念や意識が先に出てくるのはみんな通る道で、そこで感性、五感っていうところに立ち返るのが大事なんですね。
そうだね。
大人が先回りをしないように
本人の思いを深掘りしていく
(続き)
それから先回りしちゃいけないですよね。
子供に「ここだよ。おいでおいでー」っていうのはやらないようにしています。
──先回りしちゃいけない。
ついついやってしまいます。
そうですよね、ついついありますよね。
だから私もなるべく子供に対して言葉には十分に気を付けてはいるんですが、たまにやっちゃう時あるんですよ。
ああいけなかったな、もうちょっと違う声かけの仕方があったんじゃないかなと思ったりします。
できるだけその子の芽を潰さないようにしなくちゃいけないとは思ってます。
──より具体的に、例えばもう一言声かけたらより表現できるかもと感じた時にはどういう言い方をするといいんでしょうか。
親としては迷います。いいね!って言ったらいいのか…
その子の思いを聞くように引き出してあげたらいいと思いますね。
これがいいか悪いかじゃなくて、その子の思いを聞く。
どうしてこうなったのかな、というような思いを引き出してあげるといいような気がします。
──なるほど、思いを聞く。
なかなか難しいですよ。
保:うちの子もここで描くことが好きで。
でも、「じゃあ家で好きに描いて」っていうと好きにって描けないんですよね。不思議なもんで。
親が指定して描くと教科書的になるし。
ちょうどいいところが難しい。
親が”ちょうどいい声かけ”を学ぶ、親も日々学びなんだととても感じます。
身体全体を使って描く~仏画~
(続き)
それから、ぐちゃぐちゃベトベトになるのも大事にしています。体全体を使って描くっていうようなこと。
2022年5月に行った仏画展も自分の身長より大きい。
小学校低学年までは特に体を使って描くっていうのはすごい大事だと思います。
──あんまり経験ないですもんね。
学校だとだいたい机サイズ。
そうそう。
──仏画というテーマも、小さい頃に触れる機会はそうそう無いですよね。
そうですよね。
娘が大学で奈良に行っていた時に、幼稚園で仏画を描くという記事を新聞でみたんです。いや~面白いなあ、と思ってたんです。
長光寺さんで展示が決まった時に、最初仏画を展示しようとは思ってなかったんです。
でも、お寺で展示会するのだったら昔から描きたかった仏様を描いてみたいなと思って。
──4歳の子も仏画を描いてますか?
4歳も描いてますよ。
描けるかなと思うでしょう。でもね、描いちゃう。
足から描いていくとうまくいくよって教えてあげると描けちゃうんです。
保:足から描くんですか?
顔から描きたい子、描ける子は描いていいんです。
だけどこれをどうやって描くの?っていう子がいるでしょ。
そしたら足から描いてみて、バランスよくちゃんと立つからっ
だから、ほんとにちゃんとみんな入ってる。
──描き込みの量がすっごいですよね
あれ、1日で描いているんですよ
52点の子供たちが描いた仏画がこれです。(見せてもらう)
保:同じものを見てるんですか?
何種類かいろんな本を見てますよ。
仏教系の幼稚園に通っている4歳の年中さんがいて、その子は仏像をすごく近くまで行って見れるんですよ。
阿修羅像はちょっと難しいからみんな描かなかったんだけど、その子が描くって。
だから"たくさん見ている"というのはやっぱり違いますよね。
仏画展用に用意したおみくじ
教材は自分で探しにいく
photo by 風の子造形教室
──昨日は何をやったんですか?
昨日は色のお経本。これに色を塗るんです。
これ、種ポットですよ。
──種ポットですか!?
そうそう笑
こういう教材を探しまくるんです。 セット教材になってるようなものはみんな結局同じものができてしまうので、どこ行くかっていうと、ホームセンター。
ああいうところを、くるくるくるくる見て歩いたりとか。
農業用のところに行くと、結構いろんなものがいっぱいあるんですよ。
上手くいかなかったら理由を子どもが自分で考える 大人はそれを見守る
所狭しと材料がならぶ
(続き)
レッジョ・エミリアってイタリアの都市では、幼児教育で造形を取り入れていて、いろんな教材、いろんなものがいつも置いてある。
それからもちろんイタリアだから、街へ出れば彫刻とか色々あるでしょ。
そういうのをデッサンしたりとか粘土でなんか作るとき先生が口出さないんですよ。
例えば動物作ったときにバランス悪くて倒れる。
でも、先生たちはこうすりゃいいのよって言うんじゃなくて、子どもにどうやったらこれは立つかなっていうことを考えてもらう。
先生たちはその経過を記録するの。
──形どうこうじゃなくて、この理念の部分が大事ですね。
あくまで子どもたちが考える。
教育者側がそれを大事にすることで子どもの表現が変わってくるのですね。
そうですね。
材料も(教育者側が選定はしていると思うけど)ただ置いてあって、それを子ども自身が自分で選ぶ。
日本でもそういうシステムができるといいなあ。選ぶ材料も子どもの個性が出る。
もちろん教室では基本のことは教えるけれども、それ以外は自分で考えてやっていくっていうことができる人間になれたらいいなって思います。
絵の具は6色。自分で混ぜて色をつくる
大人の想像の枠を超えていく子どもたちが可愛い
──子どもを対象に造形教室をはじめようと思ったきっかけは何かあったんですか?
子どもに教えようと思ったのは自然なことですね。
学生の時に、練馬区の児童館で先輩が工作の時間を教えてたんだけど卒業するから引き継がないかっていう声かけてくれたんですね。
で、そこに2年ぐらい行ってたかな。それですごく子どもたちが可愛くて。
そこを卒業するときに、よしじゃあ自分でやるか、となったの。
──池谷さんの作品はこちらにあるんですか?(教室内を見渡す)
ここにはないです。自宅に行けばあります。
──ここには飾らないのですか?
飾りません(笑)
もう絶対、子どもたちの方がすごいんだもん。
今日のテーマだとこういうのできるかなって予想するじゃないですか。
その枠を超えてくれるスゴさっていうのはね。
もう感動的ですよね。
こう出たか!みたいな。
大人になった生徒に「ここが私の原点だった」と言われて
保:造形教室がいくつかある中でいわゆるコンクールに積極的に出すところもあるけど、ここはそうではないんですよね
そうね。
私は芸術家を育ててるわけではないので
いまここで賞をとるとか、結論を出すのではなくてね。
大人になって大きくなった時に
美しい街にしたいな。
いいものを見たいな。とか。
それは子育てとほんとに一緒だと思いますよ。
──大人になった時に選ぶジャンルはどういう風になっていくかわからないけれど、ここはそういう”ベース”みたいなものが育つ土壌なんですね。
そうそう、心のどっかにね。残っててくれたらいいなって。
芸大の美術助手やってる卒業生がいるんだけど、前に来た時に
「先生、私はね。ここが原点なの」
って言ってくれたことはすごい嬉しかった。
将来直接役に立たなくても、自分の糧になっていく
(続き)
前に「美容師になったんです」って言って挨拶に来てくれた人がいたの。
当時、もう1人のお友達と2人で来てたのね。
そしたらその後友達の子がやめちゃったのね。
ああ、これはやめちゃうかなと思ったの私は。
でもその後もずっと来てたの。
それで、わざわざ「美容師になりました」って言いに来てくれた。
そうやって目に見えない形でそれぞれの子の身になっていくといいなと思う。
保:私の知っているもう大人になった卒業生の人もね、
ここでやったこと1個も覚えてないけど、ああ楽しかったっていうのだけ覚えてるんだって。
──最高ですね。のびのび過ごせたのかな。
保:子どもにしたら、"のびのびさせてもらってる"って感覚とはまたちょっと違うかなって思ってて。
──なるほど
保:(うちの子は)教室をめんどくさがることもあるんですよ。細かくやらなきゃいけないし、先生は適当にOKしてくれないから笑
だけどなんか(この場が)好きなんですよね。
楽だから好き、ダラダラ過ごせるから好きっていうのとは違って、
やっぱり、この場が楽しいんですよね。
心を込めて作っていると
自分自身が形作られていく
(続き)
安野光雅さんと、佐藤忠良さん。
その人たちが書いた本に私の理念と通じるものがありました。
上手いとか下手とかそういう問題じゃなくて、
人間を、人格を作るために描いているんだよ。作ったりしてるんだよ。
っていうような。
──日常の中で心を込めて作っていくんですね。
そうですね。
だから集中して作ってる子を見ると、ほんとに気持ちいいです。
──選択肢も情報もすごく多い世の中で、子どもが集中モードになれる時間を作るのって結構難しいのではと思います。ここに来ることで、「自分を作る時間なんだ」と自分を解放できるんですね。
いわゆる小1の壁と言われますが、幼児期と小学校では環境が大きく変わります。
風の子造形教室は学校教育の枠と違う時間の軸で4歳の頃からずっと続く場所として存在している。
ここに来ればいつもの自分に戻れるのかな。
そんな場所があるって素敵なことだなと感じました。
ありがとうございました。
風の子造形教室
〒410-0035 静岡県沼津市山王台8-9
TEL:055-963-0552
開校時間:月・火・水曜/14:30~18:30
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